三崎 亜記○失われた町 三崎 亜記30年に一度起こる町の「消滅」。忽然と「失われる」住民たち。喪失を抱えて「日常」を生きる残された人々の悲しみ、そして願いとは。大切な誰かを失った者。帰るべき場所を失った者。「消滅」によって人生を狂わされた人々が、運命に導かれるように「失われた町」月ケ瀬に集う。消滅を食い止めることはできるのか?悲しみを乗り越えることはできるのか?時を超えた人と人のつながりを描く物語。 直木賞を逃したとはいえ、文句ない作品だった。 パラレルワールド化された世界。主人公は、町を救う。人間を救う。 家族を救う?? 分からない中で、もくもくと仕事を続けることになんの意味があるのであろうか。 いろいろ考えさせられる作品だが、こういった現象がおきても不思議ではない。か。 人間は「町」と戦い続けてきた、大きな存在の前にあまりに微力ではあったけれど。 現在は、政府機関である"管理庁"が「町」「消滅」に関する研究を重ね、少しずつ成果を挙げてきた。 町の中で消滅させられる人々の反応、その消滅の余波、ごくごくわずかに「町」の影響から 抜け出せる人が存在すること。 予知の研究も進み、今回は初めて直前に消滅する町の確定が可能となった。 とはいえその残された時間はあまりに短く、管理庁は人々を見殺しにするしかできなかったのだけれど。 そうして、また一つの町の住人が消えた。 消滅の余波をなくすため、その町の名はあらゆるところから抹消され、 住民たちに関わる写真や記録もすべて処分される。 「町」に愛する人を奪われた人々は悲しむことも許されず、大切な人との思い出も手放さなければならない。 残された人々は、しかしどんなに辛くても日常を生きていくのだ。 この世界がどんなに理不尽なことで溢れかえっていたとしても。 人が死んでいくことになんの意味もなかったとしても。 それでも彼らは生きている限り、悲しみを希望へと代えていくことができるのだから。 |